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公衆トイレの換気シミュレーション

1.はじめに

本チュートリアルでは、建物内に設けられた公衆トイレ内における気流のシミュレーションを紹介します。紹介する3条件のシミュレーション実行に必要な全ての入力ファイルは、以下からダウンロードできます。また、本シミュレーションは、一般的なIntel COREi7搭載のノートパソコン上で、並列レベルparallel = 3を用いて、1000ステップ10分程度の計算速度です。

以下の解説では、特に断りのない場合は、「基本条件」に対しての解説を行います。ここで、ファイル名横の「」は全条件共通の入力ファイルを意味します。

基本条件(窓・入口閉)

窓開放の条件

出入口開放の条件


 

2.シミュレーション対象

全てのシミュレーションにおいて最も大事なことは、シミュレーション対象を明確にすることです。本チュートリアルでは、以下の鳥観図ような実測値に基づく寸法でのシミュレーションを実施します。図中の(A)から(E)は、以下の通りで、「基本条件」、「窓開放の条件」、「出入口開放の条件」における物理境界条件に関係します。

  • (A) 出入り口ドア(下部にわずかな空気取り入れ用の隙間)
  • (B) 開閉する窓
  • (C) 天井に設置されている換気扇
  • (D) 建物内の廊下へ
  • (E) 建物外へ

トイレ内の空気は、天井に設けられた換気扇により強制的に排気されます(したがってトイレ内は負圧)。新鮮な空気は、出入り口ドア下部の隙間や、「基本条件」、「窓開放の条件」、「出入口開放の条件」に依存して開閉されるドアや窓から自然に流入します。

また、今回のシミュレーションでは、位置 (E) の建物外側の空間(x方向1.4m分)もシミュレーションで考慮しています。これは、窓開放の条件において、窓から流入する流体が、シミュレーションの解になるように設定する必要があるためです。十分な大きさの外側領域を設けない場合、窓から流入する流体は、未知の情報であるため、物理的に妥当な流入が実現されません。計算資源に余裕があれば、外側領域をより大きくしてみるのもいいでしょう。

シミュレーション対象の鳥瞰図。
シミュレーション対象の鳥瞰図。
構築された境界条件の全体図(天井以外を可視化)。
構築された境界条件の全体図(天井以外を可視化)。
構築された境界条件(x方向視点)。
構築された境界条件(x方向視点)。
構築された境界条件(x逆方向視点)。
構築された境界条件(x逆方向視点)。

 

3.3次元モデル作成

3次元モデル作成における基本的な構築ルールは、こちらのページをご覧ください。本シミュレーションにおいては、

  1. 壁面や窓、ドア(非プリセット色
  2. 床(プリセット黒色
  3. 天井(プリセット緑色
  4. 換気扇(プリセット青色
  5. Age変数のリセット(プリセット赤色
のように、数々の構成部品を別々の色を用いて指定します。これらの部品を構成する各色の物体は、(b) 3面図において指定される3次元形状のモデル構築ルールのみを用いて構築されます。

各画像のピクセル数に関して、厳密に計算領域サイズの縦横比に比例させる必要はありません(ソフトウェアで自動で補間処理を行うため)。しかし、基本的には、ある程度サイズの縦横比を反映させるほうが、画像作成上便利です。上記からダウンロード可能な、本ケースで紹介している入力ファイルでは、物理長さ1mを100ピクセルで描画しています。

以下は基本条件における境界条件指定画像です。



bcXY0.bmp
bcXY0.bmp
bcXY0.bmpの配置方向。
bcXY0.bmpの配置方向。


bcXY1.bmp
bcXY1.bmp
bcXY1.bmpの配置方向。
bcXY1.bmpの配置方向。


bcYZ0.bmp
bcYZ0.bmp
bcYZ0.bmpの配置方向。
bcYZ0.bmpの配置方向。


bcZX0.bmp
bcZX0.bmp
bcZX0.bmpの配置方向。
bcZX0.bmpの配置方向。


bcZX1.bmp
bcZX1.bmp
bcZX1.bmpの配置方向。
bcZX1.bmpの配置方向。
構築された境界条件の全体図。
構築された境界条件の全体図(天井以外を可視化)。
構築された境界条件の全体図(境界指定色で着色)。
構築された境界条件の全体図(境界指定色で着色)。

 

4.計算パラメータ

以下は、本シミュレーションにおいて特に大事なパラメータについての説明です。一般的な計算パラメータの説明は、こちらをご覧ください。

  1. cmode
    0の流体解析モードを選択。
  2. ageFlag
    Age変数を使うので、1を選択。
  3. lx
    x方向領域サイズは7.0m。これは建物外側領域まで含む。
  4. ly
    y方向領域サイズは2.5m。
  5. lz
    z方向領域サイズは3.4m。
  6. nx、ny、nz
    格子点数は、各自必要な空間解像度を考慮して決定する。本チュートリアルでは、(nx, ny, nz) = (210, 150, 102)とする。少なくとも、3次元モデルを正しく表現できる格子点数を考慮する必要がある。
  7. presW, rhoW
    圧力は、100,000 (Pa)、流体密度は1.2 (kg/m^3)。
  8. vinB
    換気扇(プリセット青色境界条件)からの流速は上向き1 (m/s)としました。換気扇の断面面積とvinBの積が単位時間当たりの換気扇流量となります。
  9. uinR、vinR、winR
    外気がトイレ屋内へ流入した直後はAge変数\(a\)を0(ゼロ;最も新鮮)という条件で拘束するため、ドア外側や窓外側に設置したプリセット赤色境界条件での流速は、uinR = vinR = winR = " - "(ハイフン)を指定する。これにより、本境界において速度は一切拘束されない一方、\(a=0\)の拘束条件がAge変数に課せられる。
  10. openPresFlag
    今回は準閉鎖空間でのシミュレーションであるので、計算境界上に位置する開放境界における圧力条件として、ディリクレ条件 (openPresFlag=1) を指定。

 

5.シミュレーション結果

以下に、本シミュレーションで得られた各条件におけるAge変数分布のXY及びZX断面図を示します。断面上の流速ベクトルも表示しています。

Age変数は、流体の滞留時間に相当します。従って、Age変数が小さい(カラーマップの青や緑色)領域では、流体の滞留時間が短く、外気からの流体が比較的短時間で入れ替わる、より新鮮な空気が存在すると考えられます。このような領域は、図中の「(i) fresh air」に相当します。一方、Age変数が大きい(カラーマップの赤色)領域では、流体が長時間滞留し、上手く換気されていないと考えられます。このような領域は、図中の「(ii) old air」に相当します。

(※今回のシミュレーションでは、外気がトイレ空間内に流入する際に赤色境界を用いてAge変数を0とリセットされています)

以下に示す3条件では、同じ換気扇の性能であっても、「基本条件(窓閉・出入口閉)」は最も換気性能が低く、「窓開放の条件」が最も均一的に換気が実施されていることが分かります。

基本条件(窓閉・出入口閉)におけるAge変数分布。
基本条件(窓閉・出入口閉)におけるAge変数分布。
窓開放の条件におけるAge変数分布。
窓開放の条件におけるAge変数分布。
出入口開放の条件におけるAge変数分布。
出入口開放の条件におけるAge変数分布。
窓開放の条件における異なるZX断面上のAge変数分布。
窓開放の条件における異なるZX断面上のAge変数分布。

 


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