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流体の滞留時間変数(age変数)

Flowsquare+バージョン2021R1.0以降で組み込まれている新たな輸送変数である流体の滞留時間変数(age変数)について説明するチュートリアルです。

  1. Age変数とは?
  2. Flowsquare+におけるage変数の組み込みルール
  3. Age変数を使ったシミュレーション例
  4. Age変数の数学的説明

 

1.Age変数とは?

Age(エイジ)変数は、\(a\)で表記する物理量で、各座標\(x\)における流体の計算領域内の滞留時間に相当します。以下に領域左から右へ流れるシンプルな流れ場(一様流とカルマン渦)におけるage変数の分布を紹介します。

一様流におけるage変数分布の例。
一様流におけるage変数分布の例。\(t=4.23\)秒。
  1. 流入境界近くの流体は、シミュレーション領域に流入してから短い時間経過しているのでage変数は小さい。
  2. 領域中ほどに存在する流体は、シミュレーション領域に流入してからある程度の時間経過しているのでage変数は比較的大きい。
  3. 領域右端に存在する流体は、シミュレーション領域に流入してから最も長い時間経過しているのでage変数は最大値をとる。
カルマン渦におけるage変数分布の例。
カルマン渦におけるage変数分布例。\(t=2.94\)秒。
  1. 流入境界近くの流体は、シミュレーション領域に流入してから短い時間経過しているのでage変数は小さい。
  2. 領域右端に存在する流体は、シミュレーション領域に流入してからある程度の時間経過しているのでage変数は比較的大きい。
  3. 物体後流域に位置する流体は、流速が小さく非常に長い時間滞留し続けるのでage変数は非常に大きな値(最大値)をとる。

Age変数が有用な例として、室内換気性能の評価について考えます。通常、換気性能は、室内体積を換気扇が排出できる単位時間当たりの流体体積で除した値 \(\tau\) を用います。 \begin{equation} \tau = \frac{\text{室内の体積}}{\text{換気扇による空気の体積流量}}\:\:\:\rm{(s)}. \end{equation}

\(\tau\)は、室内の空気を全て外気と入れ替えるのに必要な時間に相当します。つまり、体積が1m\(^3\)の部屋に、1m\(^3\)/sの排出量を有する換気扇を設置すれば、室内の空気が完全に入れ替わるのに必要な時間は1秒と推測できます。

ただし、この推測方法は、室内の流体が満遍なく偏りなしに排出されることを暗に仮定していることに注意が必要です。換気扇設置位置と、出入り口や窓の配置が適切でない場合、いくら排出性能が高い換気扇でも一様な室内換気は実現できません。

下図は、適切な換気扇配置と不適切な換気扇配置での室内換気における空気の流れの概念図です。このように、同じ排出流量を有する換気扇と同じ体積の部屋でも、新鮮な空気の流れは大きく異なり、実際の換気性能は一意に決まらないことがあると考えられます。

適切な換気扇配置による外気の流れの概念図。
適切な換気扇配置による流れ場の概念図。
不適切な換気扇配置による外気の流れの概念図。
不適切な換気扇配置による流れ場の概念図。

Age変数は、計算領域内の各位置における流体が、どのくらいの時間領域内に滞在しているかを表す物理量です。従って、換気中の室内において、どの領域の空気が素早く入れ替わり、どの領域の空気がなかなか入れ替わらないか、というような定量評価が可能になります。

例えば、室内換気シミュレーションにおいては、室内の大きなage変数を有する領域には、長時間室内に滞留している空気(あまり新鮮でない空気から構成)が多く存在し、小さなage変数を有する領域には、短時間室内に滞留している空気(より新鮮な空気から構成)が多く存在すると判断することができます。


 

2.Flowsquare+におけるage変数の組み込みルール

  • ルール1
    Age変数の単位は秒。
  • ルール2
    計算境界上(\(i=1, i=N_x, j=1, j=N_y, k=1又はk=N_z\))において、計算領域内へ流入する向きの速度を有する流入境界条件(プリセット青、赤、緑、黄、シアン)上では、age変数は\(a=0\)に拘束される。
  • ルール3
    速度を拘束しない条件のプリセット青、赤、緑、黄、シアンで指定された領域において、age変数は\(a=0\)に拘束される。例えば、uinBvinB及びwinBとしていずれも「-」(ハイフン)を指定されているプリセット青色領域では、\(a=0\)。

 

3.Age変数を使ったシミュレーション例

入力ファイルのダウンロード

まず、Age変数を用いた室内換気の2次元シミュレーションを実施し、age変数への理解を深めましょう。以下から、今回のシミュレーション用の入力ファイルを保存することができます。

境界条件設定画像ファイル(bcXY0.bmp)

下図は「適切な換気扇配置のケース」における境界条件設定画像ファイル(bcXY0.bmp)です。図中に番号でラベル付けされている項目について、それぞれ詳しく解説します。

適切な換気扇配置のケース」における境界条件設定画像ファイル(bcXY0.bmp)。
「適切な換気扇配置のケース」における境界条件画像ファイル。
  1. 室内領域

    換気性能評価の対象となる室内空間です。左上に室内空気を外へ排出するための換気扇が設置されており、右下に外気に面した開口部があります。換気扇による負圧により、この開口部から新鮮な外部の空気が室内へ流入します。

  2. 室外領域

    評価の対象は室内空間のみですが、開口部から流入する外気もシミュレーション領域に含める必要があります。これは、未知であるシミュレーション領域の外の(流体速度)情報が、室内のシミュレーション解に悪影響を及ぼさないようにするためです。

  3. 壁境界(プリセット黒色)

    室内(及び室外領域の一部)は、プリセット黒色で指定する壁境界条件を用いて定義します。

  4. 換気扇(プリセット青色)

    流入境界条件を指定するプリセット青色を用いて、室内空気を外へ排出するための換気扇を定義します。流入境界と呼んでいますが、本境界における速度指定により、強制的に室内気を外へ流出させる境界となっています。

  5. Age変数リセット用のプリセット黄色境界

    今回は、室内へ吸引された直後の外気を滞留時刻ゼロ秒(\(a=0\))とするため、外気領域をプリセット黄色で塗りつぶしています。ここで、プリセット黄色は通常流入境界を指定するプリセット色ですが、パラメータ設定において、uinYvinY及びwinY(3次元の場合)として、数値ではなく、「-」(ハイフン)を指定すると、速度は当該領域上で拘束されません(つまり黄色領域による、シミュレーションにより得られる流速に対する影響はない)。一方で、全速度成分が「-」(ハイフン)の場合、この領域ではage変数はゼロに拘束されます。2節ルール3による。

シミュレーション・パラメータ

上記の「適切な換気扇配置のケース」境界条件設定ファイルに対して設定するパラメータを以下に説明します。一般的な計算パラメータの説明は、こちらをご覧ください。

  • cmode = 0

    シミュレーションモード。今回は、0の流体解析モード(密度一定の液体、及び気体用)を指定。

  • ageFlag = 1

    Age変数を考慮するか(ageFlag = 1)、又は考慮しないか(ageFlag = 0)。

  • parallel = 2

    並列レベル。今回は、2の「レベル梅」(システム最大並列数の4分の1)を指定。

  • domx = 2000

    シミュレーション・ウィンドウの暫定横幅サイズ(ピクセル)。

  • (nx, ny) = (300, 180)

    \(x\) 及び \(y\) 方向格子点数。格子点数は、計算領域の縦横サイズ (lx, ly) に関係なく設定できる。

  • (lx, ly) = (3.5, 2.1)

    \(x\) 及び \(y\) 方向領域物理サイズ (m) 。描画される計算領域アスペクト比は、本サイズに基づく。

  • (sts, latts) = (0, 100000)

    シミュレーション開始及び終了のタイムステップ。

  • (nfig, nfile) = (10000, 10000)

    シミュレーション描画画面の画像ファイル及び瞬時場結果ファイルの出力頻度。これらで指定するステップ数おきに1回ファイル出力される。

  • presW = 1.0E+05

    計算領域内の平均圧力 (Pa) 。

  • (uinB, vinB) = (0.0, 1.0)

    境界条件画像ファイルで指定する、青色境界条件に適用される \(x\) 及び \(y\) 方向速度成分 (m/s) 。つまり、本ケースでは、上部に設置された換気扇から、上向きで1m/sの流速で室内気が室外へ排出される。

  • (uinY, vinY) = ( - , - )(ハイフン)

    境界条件画像ファイルで指定する、黄色境界条件に適用される \(x\) 及び \(y\) 方向速度成分 (m/s) 。 (uinY , vinY) を含む様々な物理パラメータは、入力パラメータとして数値ではなく、「 - 」(ハイフン)を入力すると、当該物理量は境界条件で拘束されず、基礎方程式の解がそのまま用いられる。また、2節ルール3により、全速度成分が「 - 」(ハイフン)で指定された領域において、 age 変数はシミュレーション中、常に\(a=0\)と拘束される(3次元シミュレーションでは、 winY もハイフンで指定する必要がある)。

  • mu = 1.8E-5

    流体の粘性係数 (Pa\(\cdot\)s) 。常温・常圧において、空気は mu = 1.8E-5 (Pa\(\cdot\)s)。

  • ndiv = 16

    速度ベクトル、トレーサー粒子、流線などの表示に用いられる格子点数間隔。 ndiv 格子点ごとに 1 つのベクトル、粒子(初期位置)、流線が表示される。

シミュレーション結果

下図は、「最適な換気扇配置のケース」と「不適切な換気扇配置のケース」のシミュレーション結果です。Age変数の瞬時場を示しており、以下の 1 から 4 のような特徴を有する領域に分けられます。

  1. 外気のAge変数は常にゼロ(\(a=0\))。
  2. 主流を構成する、age変数が非常に小さい流体領域(非常に新鮮な空気)。室内に流入してからの流体の滞留時間は、\(a\ll100\)秒。
  3. 二次流れを構成する、age変数がやや小さい流体領域(やや新鮮な空気)。室内に流入してからの流体の滞留時間は、\(a\approx150\)秒。
  4. 流体速度の小さく、age変数が非常に大きい流体領域(新鮮でない空気)。室内に流入してからの流体の滞留時間は、シミュレーション時間とほぼ同じで長い。
Age変数分布(適切な換気扇配置のケース)。
Age変数分布(適切な換気扇配置のケース)。
Age変数分布(不適切な換気扇配置のケース)。
Age変数分布(不適切な換気扇配置のケース)。

同じ換気扇の送風量及び室内体積による2つのケースでも、適切な換気扇配置のケースでは、主流及び二次流れにより比較的広範囲で新鮮な外気が取り込まれているのに対し、不適切な換気扇配置のケースでは、新鮮な外気が取り込まれる領域が比較的小さく、室内に長く滞在している新鮮でない空気が大部分を占めていることが分かります。

このように、age変数を考慮することで、換気扇の送風量や室内体積だけでは推測不可能な、局所の空気の滞留時間(新鮮度)を定量的に考察することが可能です。いくつかの条件でシミュレーションを実行し、新鮮な空気が必要な室内領域において、age変数が小さな分布となるように換気設備の運転条件や配置を最適化するとよいでしょう。


 

4.Age変数の数学的説明

1節では、age変数の概念について説明しました。ここでは、age変数の数学的な側面を説明します。全ての変数名及び用いる物理モデルは、ソルバーの詳細ページと同様です。

流体中のage変数 \(a\) の輸送方程式: \begin{equation} \frac{\partial \bar{\rho} \tilde{a}}{\partial t} + \frac{\partial \bar{\rho} \tilde{u_i} \tilde{a}}{\partial x_i} = \frac{\partial}{\partial x_i} \left( \bar{\rho} D \frac{\partial \tilde{a}}{\partial x_i} \right) - \frac{\partial \bar{\rho} \phi_i^a}{\partial x_i} + \bar{\omega}_a, \end{equation}

Age変数 \(a\) のSGSスカラー流束項: \begin{equation} \phi_i^a = \widetilde{u_i a} - \tilde{u}_i \tilde{a}. \end{equation}

Age変数 \(a\) の生成項: \begin{equation} \bar{\omega}_a=1\:\:\rm{(kg/m^3/s)}. \end{equation}

生成項\(\bar{\omega}_a=1\:\:\rm{(kg/m^3/s)}\)であるために、局所流体のage変数は、領域内に存在する限り毎秒1づつ増加します。従って、1節で概念的に説明したように、age変数は局所流体の領域滞在時間に相当します。

Age変数に関する境界条件は、基本的にはスカラーと同様(壁面で流束なし)ですが、追加の拘束条件として、2節ルール1~3も適用されます。


 


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