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らせん構造による渦発生低減シミュレーション

1.はじめに

カルマン渦の工学的重要性の一つに、渦発生に伴う周期的な圧力変動があげられます。この圧力変動は、渦発生周期に同期し、円柱物体へ周期的なストレス応力を及ぼします。また、この圧力変動は、騒音の原因にもなり得ます。

本現象に起因する有名な事故として、タコマローズ橋の落橋や、もんじゅのナトリウム漏洩火災事故などが挙げられ、本現象による周期運動を低減することは工学的に非常に重要です。

本シミュレーション例では、これらの現象を抑制する効果のある、らせん構造を付加した円柱形状周りの流れのシミュレーションを実施し、通常の円柱周りの流れと比較します。

ここで紹介するシミュレーション実行に必要な全ての入力ファイルは、以下からダウンロードできます。

入力ファイル

また、本シミュレーションは、一般的なIntel COREi7搭載のノートパソコン上で、最大並列数(parallel)を用いて、1000ステップ4分程度の計算速度です。


 

2.計算対象・境界条件

直方体のシミュレーション領域内の一方に流入境界を青色で指定し、少し下流側に、緑色で流速場を可視化するためのスカラー(水中に流す有色インク)の発生源、更に少し下流にカルマン渦の発生源となる固体壁(円柱)をマゼンタ色(非プリセットカラー)で設置します。

Z方向に円柱に沿って伸びる「らせん構造」は、桃色(非プリセットカラー)で指定しています。ここで注意点として、桃色には、XY方向(bcXY0.bmp)のストレッチングを忘れずに適用します。

bcXY0.bmp
bcXY0.bmp
bcYZ0.bmp
bcYZ0.bmp
bcZX0.bmp
bcZX0.bmp
らせん構造:XY方向ストレッチング。
らせん構造:XY方向ストレッチング。
構築された境界条件。
構築された境界条件。

 

3.計算パラメータの設定

本シミュレーションでのパラメータは、基本的にはカルマン渦と同様ですが、らせん構造により、Z方向にも大きな速度変動が存在することが予測されるため、Z方向格子点数nzを100に増やし、全方向同一の解像度としています。一般的な計算パラメータの説明は、こちらをご覧ください。


 

4.プローブの設置

円柱への応力を検討するために、円柱上下にて点計測を行うためのプローブを設置します。また、下流域にも一つプローブを設置します。ここでは、それぞれ、Upper probe, Lower probe, Downstream probeと呼びます。プローブ設置の方法は、こちらをご覧ください。

円柱上下及び後流域に設置のプローブ(マゼンタ物体)。
円柱上下及び後流域に設置のプローブ(マゼンタ物体)。

 

5.シミュレーション結果

シミュレーション結果動画を以下に示します。色はスカラー(水中に流す有色インク)の濃度で、円柱に及ぼされる応力(円柱上下プローブにおける圧力差)の時間変化のプロットを示します。また、らせん状構造を付加した円柱(Helical cylinder)のシミュレーション結果を上に、通常の円柱(Standard cylinder)におけるシミュレーション結果を下に示します。

シミュレーション結果動画。

円柱上下に設置したプローブで計測した圧力差(\(\Delta p=p_{(upper)}-p_{(lower)}\))の時間変化を示します。本圧力差は円柱に作用する応力と直接的な関係にあります。らせん構造を付加した円柱では、準定常な周期的な圧力変動はほとんど存在せず、これにより、円柱に掛かる繰り返し応力が低減されていることが分かります。

円柱上下に設置したプローブで計測した圧力差。
円柱上下に設置したプローブで計測した圧力差。

 


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