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建物内対流のシミュレーション
1.はじめに
本チュートリアルでは、熱源を有する建物内における気流のシミュレーションを通じて、3次元モデルの作り方、入力ファイルにおける注意点、可視化テクニックについて説明します。
ここで紹介するシミュレーション実行に必要な全ての入力ファイルは、以下からダウンロードできます。
入力ファイル
また、本シミュレーションは、一般的なIntel COREi7搭載のノートパソコン上で、最大並列数(parallel = 4)を用いて、1000ステップ5分程度の計算速度です。
2.計算対象の明確化
全てのシミュレーションにおいて最も大事なことは、計算対象を明確にすることです。本チュートリアルでは、以下のような複数の熱源が設置され、建物左右と上部に開放口のあるケースを計算対象とします。通常、寸法などはシミュレーション対象となる建物の平面図などから取得することができます。
本建物は、温められた空気が上部の開放口から流出し、同時に左右の開放口から外気が建物内に(自然に)流入することで、建物内温度をできるだけ低温に保つ、という意匠となっています。ただし、実際にそのような現象になっているかはシミュレーション結果を見るまでは分かりません。
本ケースでは、初期の気温を300K(約27度)、熱源の温度を350K(約77度)とし、建物壁面及び床面は断熱素材が用いられていると仮定します。
3.3次元モデル作成
3次元モデル作成における基本的な構築ルールは、こちらのページをご覧ください。本シミュレーションにおいては、
- 建物の壁面(紫色)
- 床(ピンク色)
- 熱源(プリセット赤色)
- 屋根(プリセット黒色)
の4つの構成部品を別々の色を用いて指定します。これらの構成部品は、(b) 3面図において指定される3次元形状のモデル構築ルールのみを用いて構築されます。
各画像のピクセル数に関して、厳密に計算領域サイズの縦横比に比例させる必要はありません(ソフトウェアで補間処理を行うため)。しかし、基本的には、ある程度サイズの縦横比を反映させるほうが、画像作成上便利です。本ケースでは、物理長さ1mを100ピクセルで描画するという風に、各自ルールを設けると良いでしょう。
4.計算パラメータの設定
上記でシミュレーション対象を明確にしておけば、計算パラメータの設定はそれほど難しくありません。本計算では、初期の気温を300K、熱源温度を350K、断熱壁面という熱的条件を考慮します。また、領域の大きさは、上図のように幅(x)14m、奥行き(z)8m、高さ(y)4mです。以下は、本シミュレーションにおいて特に大事なパラメータについての説明です。一般的な計算パラメータの説明は、こちらをご覧ください。
- cmode
1の熱流体解析モードを選択 - lx
x方向領域サイズは14m。 - ly
y方向領域サイズは4m。 - lz
z方向領域サイズは8m。 - nx、ny、nz
格子点数は、各自必要な空間解像度を考慮して決定する。本チュートリアルでは、(nx, ny, nz) = (200, 50, 100)とする。少なくとも、3次元モデルを正しく表現できる格子点数を考慮する必要がある。 - tempW
領域内初期温度は300K。 - vinW
領域内初期y方向速度は-0.1m/s(マイナス、下向き)。これは、計算を安定的に行うため(時間ステップ幅が初期流速又は流入速度から決定されるため、初期流速又は使用する流入速度のうち一つはゼロではない値を用いる必要がある)。この作為的な初期流速は、シミュレーションを十分長く実行した場合、シミュレーション結果に影響を与えない。 - uinR、vinR、winR
熱源は個体壁なので、流速は、uinR = vinR = winR = 0m/s。これはデフォルト値なので、パラメータファイル内で指定しなくてもよい。 - tempR
熱源の温度は350K。 - tempWallK
黒で指定した屋根は断熱を仮定する為、0を設定。 - tempWall
黒以外のプリセットカラー以外で指定した建物壁面、床面は断熱を仮定する為、0を設定。 - gfy
自然対流(高温の気体が上昇する現象)も考慮する為、重力加速度である-9.8 m/s^2(マイナス下向き)を用います。
5.シミュレーションの実行、解析及び考察
いよいよシミュレーションを開始します。シミュレーション終了後、解析モードで、プロジェクトを読み込むことで、出力されているシミュレーションの瞬時結果ファイルを読み込み、可視化を行うことができます。以下に、本シミュレーションから得られる典型的な可視化結果を示します。
以下は、床近く及び天井近くに設置した時間計測プローブにより取得された、温度の時間変化を示しています。換気扇を最適に配置し強制対流を活用することを追加のシミュレーションで確認することもできます。