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トンネル内の高温ガス流動

1.はじめに

モデルの減算処理は、比較的複雑な流路の構築に有効です。本チュートリアルでは、蛇行しているトンネル内に高温ガスの発生源が存在する場合(例:火災)に、どのように高温ガスが流れるかを、様々なトンネル内流速の条件で検証します。

トンネル上流の流体は、x方向に一定流速で一様に流れています。今回考慮する流速は、0.1 m/s0.2 m/s、そして 0.4 m/s です。トンネル上流側から周囲ガスが流入し、周囲ガスの温度は 300K です。また、高温ガスの発生源は、トンネル内の上流側の地面に設置され、ここを通過する流体は 600K まで加熱されます。

本チュートリアルでは、この様なシミュレーションを通じて、モデルの減算処理について説明します。紹介するシミュレーション実行に必要な全ての入力ファイルは、以下からダウンロードできます。

入力ファイル

本シミュレーションは、一般的な PC 上で、並列レベルparallel = 3(パラメータ設定参照)を用いて、1000ステップ1分程度の計算コストです。


 

2.3次元モデル作成

3次元モデル作成における基本的な構築ルールは、こちらのページをご覧ください。構築の手順として、まず要素ごとにビットマップ画像作成し3次元モデルを作ります。

下図は境界条件用ビットマップ画像と、それらのシミュレーション領域内での向きを示します。

bcXY0.bmp
bcXY0.bmp
bcXY1.bmp
bcXY1.bmp
bcYZ0.bmp
bcYZ0.bmp
bcYZ1.bmp
bcYZ1.bmp
bcZX0.bmp
bcZX0.bmp
bcZX1.bmp
bcZX1.bmp

これらの境界条件定義用ビットマップ画像にか、以下のようなプリセット色および非プリセット色を使用して、蛇行するトンネル、高温ガス発生物体、流入境界等を定義しています。

プリセット色
  • トンネル上流側、x方向正の向きの流入境界
  • 高温ガス発生物体(流体速度拘束なしの温度境界)
  • 補助的な壁境界
非プリセット色
  • 地面
  • トンネル形状で 減算 される側の物体
  • (中実な)トンネル形状(減算 対象の形状)

ここで、減算処理に関する境界条件色 について、説明します。 により、上流側(画像左側)の大部分を満たす、大きな矩形形状が構築されます。また、 により、蛇行するトンネル形状(ただし、中空ではなく、中実)が構築されます。この矩形形状から、中実なトンネル形状を減算することで、(中空な)トンネル流路が構築されます。

下図のような、非プリセット境界条件色 で構築された矩形形状から、もう一つの非プリセット色 で構築された中実なトンネル形状が幾何学的に引き算され、結果として、下図右の中空なトンネル形状が構築されます。

減算される側の矩形物体
減算される側の矩形物体
減算する側(減算対象)の中実トンネル形状物体
減算する側(減算対象)の中実トンネル形状物体
減算処理後の(中空な)トンネル形状
減算処理後の(中空な)トンネル形状

減算等の、各色ごとの境界構築ルールの設定は、境界条件ファイルの読み込み画面において、次のように設定可能です。

今回の場合、まず、非プリセット色 で指定されたオブジェクトに対して、YZ方向のストレッチングの機能を適用し、蛇行するトンネル(中実)を定義します。つまり、bcZX0.bmp の形状に合わせて、bcYZ0.bmpにで記述された形状をYZ方向に適宜伸張することで、スムーズに蛇行するトンネルを構築します。

次に、境界条件構築順序を変更します。境界条件は、カラーリストの上の色から下の色の順で対応する境界条件が構築されます。今回、中実トンネル形状を最後に減算する必要があるのですが、減算後に で定義される流入境界条件と、 で定義される高温ガス発生物体を構築する必要があります(そうしないと、これらの物体も全て減算されてしまうため)。

つまり、 を減算対象の境界条件色より下に移動します。移動方法は、色カードのドラッグ&ドロップで可能です。

以上の操作(ストレッチングと順序)実施の BEFORE と AFTER を下図に示します。

※ただし、これらの操作は、本チュートリアルからダウンロード可能な bmp.txt をプロジェクトの input ディレクトリに設置することで自動で適用可能です

境界条件色リスト変更前
境界条件色リスト変更前
境界条件色リスト変更後(色別の構築順序、ストレッチング及び減算)
境界条件色リスト変更後(色別の構築順序、ストレッチング及び減算)

最終的に、これらの境界条件用ビットマップ画像から構築された、蛇行するトンネル、高温ガス発生物体境界、トンネル上流側の流入境界は以下の様になります。

シミュレーション領域全体像
シミュレーション領域全体像
シミュレーション領域をトンネル下流から見た図
シミュレーション領域をトンネル下流から見た図
トンネル内を下流から覗き込んだ図。上流側に青色流入境界と緑色の高温ガス発生物体が確認可能
トンネル内を下流から覗き込んだ図。上流側に青色流入境界と緑色の高温ガス発生物体が確認可能

 

3.入力パラメータ

以下は、本シミュレーションにおいて特に重要なパラメータについての説明です。一般的な計算パラメータの説明は、こちらをご覧ください。

  1. cmode
    cmode=1の熱流体モードを選択し、温度変動有りの条件を考慮
  2. lx, ly, lz
    シミュレーション領域のx, y, z方向サイズはそれぞれ10.0m, 5.0m, 5.0m。
  3. nx, ny, nz
    x, y, z方向の格子点数は、必要な空間解像度や計算資源を考慮して決定します。本チュートリアルでは、(nx, ny, nz) = (100, 50, 50)。
  4. uinB, vinB, winB
    青色境界からは、x方向正の流入。vinB, winBはデフォルト値 (=0) を考慮。本チュートリアルでは、(uinB, vinB, winB) = (0.1, 0, 0) m/s を基本とし、考察のために、別途 uinB = 0.2 m/s と 0.4 m/s も考慮。
  5. uinG, vinG, winG
    緑色境界では、流速を拘束しない。つまり、(uinG, vinG, winG) = (-, -, -) m/s
  6. tempG
    緑色境界上の温度は600K。その他の温度(初期温度、青色境界温度)はデフォルト値 (=300K)。
  7. mu
    空気の粘性係数として、2.0E-5 (kg/m/s)を指定。
  8. gfy
    浮力を考慮するため、Y方向の外力として、重力加速度を設定。-9.8 m^2/s。

 

4.シミュレーション結果

本シミュレーション入力ファイルでFlowsquare+を実行した場合の結果は以下の通りです。高温ガスやそれに暖められた周囲気体は、浮力によってトンネル上部に多く存在している様子が観察されます。また、一様流流速の増加と共に、そのような高温流体はトンネル上部に対流する前に排出される様子が示されています。

トンネル内一様流速 0.1 m/s の条件
トンネル中ほどにおける YZ 断面内の温度及び速度分布
トンネル中ほどにおける YZ 断面内の温度及び速度分布
トンネル下流側出口ほどにおける YZ 断面内の温度及び速度分布
トンネル下流側出口ほどにおける YZ 断面内の温度及び速度分布
トンネル内一様流速 0.2 m/s の条件
トンネル中ほどにおける YZ 断面内の温度及び速度分布
トンネル中ほどにおける YZ 断面内の温度及び速度分布
トンネル下流側出口ほどにおける YZ 断面内の温度及び速度分布
トンネル下流側出口ほどにおける YZ 断面内の温度及び速度分布
トンネル内一様流速 0.4 m/s の条件
トンネル中ほどにおける YZ 断面内の温度及び速度分布
トンネル中ほどにおける YZ 断面内の温度及び速度分布
トンネル下流側出口ほどにおける YZ 断面内の温度及び速度分布
トンネル下流側出口ほどにおける YZ 断面内の温度及び速度分布

下図はトレーサー粒子を使った可視化の例を示します。粒子の色は、各粒子の位置における温度を示しています。青は比較的低温、赤は高温を示しています。

流速が 0.1 m/s の条件では、トンネル内の流体温度はほぼ完全に階層化されており、上部に高温、下部に低温流体が層状に存在している様子が示されています。一方、流速のより大きな条件では、これに起因する局所的な混合の作用により、流体温度の階層化はそこまで完全ではなく、トンネル内上部にも低温流体が存在することが示されています。

トンネル位置確認用の図
トンネル位置確認用の図
流速 0.1 m/s
流速 0.1 m/s
流速 0.2 m/s
流速 0.2 m/s
流速 0.4 m/s
流速 0.4 m/s
トンネル内主流流速 0.2 m/s における典型的な流線(温度で色付け)
トンネル内主流流速 0.2 m/s における典型的な流線(温度で色付け)

 


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